ヒト故に、

佐々木は佐々木で在り、ヒトでは無い。

温かさに触れる。

今にも泣きそうな暗い顔で歩いた。

 

遠い場所へ行きたい。

夜の星と、海を見て、

温かいココアを飲みながら、座って、ぼぅっと、何も考えず。

 

同居人は涙を溜めて暗い顔で街を歩いた。

 

雑貨屋の店員が呼び止める。

「お菓子をあげる。今そういうキャンペーンを行っているから。」

同居人の手元には、チョコクッキーが握られた。

 

服屋の店員が呼び止める。

「好きなハンカチを選びな。一枚だけだけどね。」

同居人の手元には、チョコクッキーとハンカチが握られた。

 

食器屋の店員が呼び止める。

「これも何かの縁だから。お客が差し入れてくれたこのお菓子、ひとつ貰ってくれるかな。」

同居人の手元には、チョコクッキーとハンカチと栗菓子が握られた。

 

本屋の店員が云った。

「貴方にピッタリの本を選んであげます。」

同居人の手元はもう持てない程だった。

チョコクッキーとハンカチと栗菓子と本を、

 

それから沢山の人間の温かさを抱えた。

 

どうしてこんなにも優しくしてくれるのか。

見ず知らずの人間に温かい心をくれるのか。

何かもかも捨てたくなった時に限って人間は止めるのであろうか。

人間は同じ人間なのに、どうしてこんなに違う人間が居るのだろうか。

 

 

佐々木には判らない。